影の境界線 - 異世界干渉編

01 -西暦2xxx年


  ここは少し前までとても栄えていた小さな島国。
 この国の者達は24時間戦っているかの如く働き技術を磨き信頼と大金を得てきた。

 しかしここ数十年は景気低迷を続け衰退の一途を突き進む。
 本来であれば「政治家せいじか」であるはずの者達が「政治屋せいじや」と呼ばれるくらいに腐敗してしまったのも大きな原因の1つだろう。
 政治屋は自らと官僚、一部の特権者や大手企業が得するように働き、私腹を楽に肥やす事に夢中だ。

 勿論、中には立派な政治家と呼べる者もいるのだが何せ多勢たぜい無勢ぶぜい
 政治家と呼べる者は少数であり手腕を振るう前に政治屋から潰され、時として志半ばで不幸な終わり方を迎える事もある。

 そう。
 栄えた国をここまで弱体化させたのは政治があまりにも酷いからだ。

 景気がどんなに悪くても、政治屋と呼ばれる者は自由に税を上げられ、搾り取った税の使い方はなんと自由。
 政治屋は税を納めた自国民より外国や外国人を大切にする姿勢を見せている。
 その他、謎の団体や意味のない政策へ多額の金が注ぎ込まれた。
 しかし実際に困っている国民へは出し渋る有様である。

 脱税は厳しく取り締まり法により罰も用意されているが、税の無駄遣いに規制は一切無いのだ。

 本来なら大規模なデモやクーデターが起きても何ら不思議ではない。
 しかしこの国特有のおとなしい国民性は、悪政に文句を言いつつも黙って税を納め続け国に反旗を翻す事も無く真面目に働き納税するのみ。

 それに胡座をかいているのだろう。
 一部の者に都合のいい法律が次から次へと施行され自国民を保護しない姿勢を政治屋は貫く。

 特権者にとって、何とも都合のいいこの国の在り方が当面続くのは間違いない。

 今の状態は特権者や有力者の下に生まれられれば、イージーモードと言われる人生を送れ将来が約束されている。

 それを証明するかのように政治屋は代々続く世襲せしゅうもかなり多い。
 何の苦労もなく世襲で継いだ政治屋に一般国民の生活が分かろうはずもなく、延々と愚策が続く。

 そんな中で生きる市井しせいの者は大変だ。

 この世に於いて所謂「代々続く良家」ではなくツテもコネも無く、生まれ持って恵まれた特別な才能もない凡人や一般人は常に人生をかけた椅子取りゲームをしなきゃならない。

 そして更に残酷な事実がある。

 それは…

 努力は必ずしも結果を出すわけではない。

 という事だ。

 頑張っても結果を出せなければ認められない世界だから、落ちぶれる者は少なからず出てくる。

 それらは「努力不足」と「自己責任」として片付けられ、容赦ようしゃ無く切り捨てられるので様々な面に於いて格差は開くばかり。

 中には怠惰たいだな者も自業自得じごうじとくの者もいる。
 その者らは打ち捨てられても致し方ないだろう。

 しかし努力が実らない者や、ひたすら不運ふうんな者もいる。
 その者らも怠惰たいだ自業自得じごうじとくの者達と同様に容赦ようしゃ無く国は打ち捨てる。
 救われるすべが殆どないこの国では、自らの命を断つ者は老若男女ろうにゃくなんにょ問わず増加傾向だ。

 そして、開く格差は更なる不幸を招く。
 その1つである社会現象が「無敵の人」の増加だろう。

 失う物が何もない。
 命もまぁ、どうでもいい。
 親ガチャ失敗、家族が憎い…
 世の中が憎い、国が憎い、周りが憎い…
 報われぬ自分、何も持てぬ自分、何も持っていない自分…

 それが「無敵の人」。

 その者達は大罪を犯しても、失う物が無いから怖くない。

 逆恨み、思い込みから無差別大量殺人等の犯罪を犯す者が増えてきた。
 自暴自棄じぼうじきになり、自らの境遇きょうぐうの報われなさを外へ向けるのだ。

 更に追い討ちをかけるように、犯罪が正当に裁かれない事例も増加してきた。
 司法しほう関係者がやりたい放題できるから裁きが公平ではない。

 証拠のもみ消しも可能。
 不起訴ふきそ理由を明かさないのも自由。

 どんな悪事も責任能力が無いと判断をすれば、被害者そっちのけで無罪扱いをする。
 犯罪を犯した者の属性によって謎の忖度そんたく優遇ゆうぐうを加えられる何とも便利な仕組みだ。

 だから同じ犯罪であっても裁かれる者と裁かれない者がいる始末。

 俺から見たここは「良き世の中」には感じられない。

 凡庸ぼんような者。
 努力が実らぬ者。
 不遇ふぐうな生い立ちの者。

 そういった属性ぞくせいで、伝手つてもコネも無いただの一般人であるのなら。

 国に逆らわず黙って良い子に低賃金の単純労働をしておけ。
 そして国に税を搾取さくしゅされ、踏みつけられ続け誰にも迷惑かけず勝手に死ね。

 この国の流れはそうなっている。

 国民の為と見えるだけの政策をし、一部の者に端金はしたがねをバラき、いた後にはそれを回収する為の増税だ。
 配った金よりも増税で多くせしめるように仕組まれているのが裏のお約束だろう。

 つまり。

 一部の者は税からの金が楽々、ふところに入る。
 大手の会社だけは減税される事もしばしばだ。
 法人の種類によっては納税しなくても良い仕組みまである。

 しかし…

 真っ当まっとうな者を踏みにじり税から楽に金を得られる政治屋達も。

 ツテやコネだけでざいを成し他者たしゃを見下す者も。
 努力が実らない者の切り捨てを振仮名フリガナ是《ぜ》とする者も。
 悪事が正当に裁かれずのうのうと生きる者も。
 マナーやモラルが不品行ふひんこうで迷惑をかける者も。
 偶然ぐうぜん持ってた才で成功し、他者たしゃを努力不足と叩く者も。

「その時」を迎えたら気付く。

 どれだけおろかに生きていたかという事に。

 俺は力と特権がある。

 この世の価値観だと権力者は好き勝手できる。
 この世の価値観では才や力ある者は自身より劣る者を見下してもヨシとされている。

 であるのなら俺にはお前らを自由にする権利があるという事だ。

 何も知らぬまま富と地位を満喫し、この世だけを面白楽しく傲慢ごうまんに生きればいい。

 気付いた時は既に手遅れなのだから…

 この国は…いや、この世界は。

 人心が年々荒んできた。
 多くの人にはもう余裕が無い。
 かつてはあった情もどんどん失われていくのだろう。

 今は西暦2xxx年。
 俺は訳あってこの世界ともう1つの世界、両方で生活をしている。

 正直を言えば、現世の人間は好きになれない。 

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