王に書簡の件を伝え、帰ってくるのを待っている。
私はその間、何度かそれを読み返した。
文章から不満がひしひしと伝わり紙は強い魔素を発し、それは威圧感を放つ。
王は彼方の世界に関わっている。
いつもなら王はこれからリックの仕事をするけれど、今日は私達が呼んだからアルバイトが終わったら戻ってきてくれるはず。その待ち時間がとても長く感じられ、私は手紙の内容に関わる彼方と此方の事をつい考えてしまった。
此方の世界はリックが居る世界の人からすれば「あの世」と呼ばれる場所。
彼方の世界に住む人はこの世界を「天国」「地獄」「神の御許」「虹の橋」「あの世」「お星様(になった?)」等と言うみたい。
呼ばれ方はそんなふうに色々あるけれど結局は同じ所よ。
彼方の世界に住まう者が信仰する宗教によって捉え方が違うってだけね。
各々の考えで色んな見解をされているけれど、どのように捉えても彼方側に住まう人間は「死んだら終わり」ではなく基本は此方での生活が待っている。しかし彼方側に生ある人間にとって「死んだら別世界で生きる」という話をしたところで信じる人は少ないし、話したところでオカルトとかスピリチュアルとか言われ変人扱いされてしまうわね…
私だって彼方で生きていた時に、そんな話を聞いても信じなかったと自信をもって言えるもの。
私が覚えている彼方は今よりもっと昔で記憶も曖昧だけど、そんな事を信じ話したら火炙りにされていたかもしれない、という漠然としたものが頭に残っている。
彼方で生きていた頃とリックが生きる現代はかなり違いがあって国も違うから比較してはならないかもしれない。でも私が感じるリックが住む国の冷たさや檻のような雰囲気が私は好きではない。私が生きていた頃が何も問題なく素晴らしかった、なんて言えないけれどね。
此方の者は彼方の人から「霊(幽霊)」「お化け」、宗教によっては「悪魔」なんて呼ばれている。それらは彼方では者の一部だけしか認識できない。私がリックの所にこのまま行って、もしも視える人に遭遇したら間違いなく異国人の幽霊としてみられるわ。
他にも彼方の世界で物質的な肉体を持たない存在は多種多様に存在していて呼び方も様々ある。
彼方で人間として生きていて亡くなった幽霊と言われる存在。
幽霊として現れているのに人間としても生きている存在。
人間として生を受けてはいない存在。
神とか仏とか呼ばれる存在。
その他、当てはまらない存在も居て、それらは総称として霞体とここでは呼ばれている。
私は彼方で人間として生きていた経験がある。
つまり彼方で人間として生きていて亡くなった存在だから普通の幽霊ってことよね。
………。
普通の幽霊って何かしら?
そう考えちょっと笑ったその時、後ろから声がした。