影の境界線 - 異世界干渉編

07 -異世界とは

 王に書簡の件を伝え、帰ってくるのを待っている。

 私はその間、何度かそれを読み返した。

 文章から不満がひしひしと伝わり紙は強い魔素を発し、それは威圧感を放つ。

 王は彼方あちらの世界に関わっている。

 いつもなら王はこれからリックの仕事をするけれど、今日は私達が呼んだからアルバイトが終わったら戻ってきてくれるはず。その待ち時間がとても長く感じられ、私は手紙の内容に関わる彼方あちら此方こちらの事をつい考えてしまった。

 此方こちらの世界はリックが居る世界の人からすれば「あの世」と呼ばれる場所。
 彼方あちらの世界に住む人はこの世界を「天国」「地獄」「神の御許」「虹の橋」「あの世」「お星様(になった?)」等と言うみたい。

 呼ばれ方はそんなふうに色々あるけれど結局は同じ所よ。
 彼方あちらの世界に住まう者が信仰する宗教によって捉え方が違うってだけね。

 各々の考えで色んな見解をされているけれど、どのように捉えても彼方あちら側に住まう人間は「死んだら終わり」ではなく基本は此方こちらでの生活が待っている。しかし彼方あちら側に生ある人間にとって「死んだら別世界で生きる」という話をしたところで信じる人は少ないし、話したところでオカルトとかスピリチュアルとか言われ変人扱いされてしまうわね…

 私だって彼方あちらで生きていた時に、そんな話を聞いても信じなかったと自信をもって言えるもの。

 私が覚えている彼方あちらは今よりもっと昔で記憶も曖昧だけど、そんな事を信じ話したら火炙りにされていたかもしれない、という漠然としたものが頭に残っている。

彼方あちらで生きていた頃とリックが生きる現代はかなり違いがあって国も違うから比較してはならないかもしれない。でも私が感じるリックが住む国の冷たさや檻のような雰囲気が私は好きではない。私が生きていた頃が何も問題なく素晴らしかった、なんて言えないけれどね。

此方こちらの者は彼方あちらの人から「霊(幽霊)」「お化け」、宗教によっては「悪魔」なんて呼ばれている。それらは彼方あちらでは者の一部だけしか認識できない。私がリックの所にこのまま行って、もしも視える人に遭遇したら間違いなく異国人の幽霊としてみられるわ。

 他にも彼方あちらの世界で物質的な肉体を持たない存在は多種多様に存在していて呼び方も様々ある。

 彼方あちらで人間として生きていて亡くなった幽霊と言われる存在。
 幽霊として現れているのに人間としても生きている存在。
 人間として生を受けてはいない存在。
 神とか仏とか呼ばれる存在。

 その他、当てはまらない存在も居て、それらは総称として霞体カタイとここでは呼ばれている。

 私は彼方あちらで人間として生きていた経験がある。

 つまり彼方あちらで人間として生きていて亡くなった存在だから普通の幽霊ってことよね。

 ………。
 普通の幽霊って何かしら?

 そう考えちょっと笑ったその時、後ろから声がした。

前へ ・ 次へ

-影の境界線 - 異世界干渉編
-

執筆者:

関連記事

16 -霊を視る者「リック」

 いつもなら通販サイトへの出品をしてくれている時間なんだけど蒼君そうくんは向こうの世界へ戻っていった。  私に何も話してくれないけれど、たぶん国で問題が起きたんじゃないかな。  本来なら私が仕入れも出 …

08 -国王と手紙

「なんだなんだ〜?いつもより固い声だったなぁ?」  緊張感なく、いつも通りのんびりした口調で戻ってきたその人は月光国の王。  成人男性としてはとても小柄。  童顔という言葉がとても似合う。  黒い短髪 …

ーお知らせー 41 -現世でのリック宅

今までこちらにも記していたのですが、昨今のAI問題もあり、今の自分の時間的余裕から考えて、ワードプレスを弄ってAI閲覧を防ぐのは困難と判断しました。今後は掲載している外部サイトへのリンクを貼る事にいた …

54 -亡命者

影の境界線 -異世界干渉編- 54 -亡命者  叫び声を上げたのは嫌雪けんせつである。  嫌雪はウデーと面識がないので、驚くのも無理はない。  どうにもウデーの外見は命を有する存在に、一定の恐怖を与え …

36 -神都侵入

 ここは神が王として君臨する神都、ハーゥルヘウアィ・ララ。  神、と呼ばれる存在は多数、存在している。その中でも『信者が多い』『古くから存在している』のは神として力が強くなる。神々の中でランクなんても …

自動販売機の水

短編小説「ヨルノコエ投稿作品シリーズ」この物語は「水」から始まった… » 続きを読む

kazari

カテゴリー

kazari


お問い合わせ

お問合せ