影の境界線 - 異世界干渉編

22 -亜人

草原が後ろに緑明るく見え始めた頃、風景は変わってくる。

 草が減りやや湿気った土が剥き出しで石も多くなってきた。植物も少し生えているが草原にあるものとは異なり地面を這うように低い草がまばらにある程度。それには小さな花が見え、それが少しだけ風景を和ませているが、先の草原とは違い、どこか暗い雰囲気が漂っていた。

 ここは、どの国とも隣接がない区画だ。

 旅人や国家間配達をする者の大半は迂回し、ここを通りたがらない。

 この区画にはモンスターと呼ばれるものも出るし亜人種が居るからだ。

 亜人の中には好んで人を狩る種や、いたぶる為だけに人を飼育する種も存在しているので、戦い慣れていない者は通らないのが懸命な判断であった。

 中には友好的な亜人種も居るのだが、見てすぐにそれを判断するのは難しい。旅慣れていて亜人に顔見知りができればこの地の往来も楽になるけれど友好的な亜人は少ない。少数の友好的亜人と知り合う為に、ここを通るのはハイリスクハイリターンなので試せる者は限られるのだ。

 ちなみに、亜人種も元は現世の人である。人間は彼方あちらで死んだ後、あの世と称される此方こちらに来て人間種や現世には存在していないその他の人種、そして亜人と様々な姿になり、この世界で生活の続きを開始する。

 —基本、ではあるが。

 この世界で命を落とせば現世で赤子となり生まれ変わる。中には人間外の動物になる者もいるそうだが、それは例外中の例外であった。簡単に言ってしまうと「この世」と「あの世」というのは死を介して行ったり来たりの関係なので、現世で死が訪れれば再び此方こちらの世界での生活が始まる、というわけだ。

 その中で、亜人となる人間は概ね決まっている。

 人間としての死を迎えた後、此方こちらでの種が亜人か人間かを見分けるのは比較的容易であった。

 現世、所謂「人間の世界」で交戦的な人種、他国を侵略するのが好きな人種、他国の土地を勝手に占有したがる者や利己的で暴力を好む者。それらの殆どが現世で生を終え此方で亜人種となる。その性質上、どこの国に属する人なのかで亜人か否か、ある程度の振り分けがされている状態だ。

 現世では知られざる事実だが、これを言った所で「差別」と言われるか、変人扱いされるかのどちらかだろう。その事実に気付いている者も居るが、心の内に留めておくのが、彼方あちらの世界では利口な生き方というものである。

 ともかく、此方に来るとオークやオーガになる者は「現世のうちに霞体本体を始末しておこう」というのが今の主流となっていた。また、人間種であっても犯罪者や素行の悪い者が一気に大勢で入ってきてしまえば民度が下がり治安もまた同様に劣化してしまう。だから来る前に彼方側で始末して魂の選別をしておきたい。

 それが各国の共通認識になったのは、ここ100年くらいの事だ。

  彼方の世界 現世はそう、遠くなく滅ぶ。

 勿論、1年10年といった短い期間で滅ぶわけではない。しかしおおよそ、文明と呼ばれる社会形成をしてから今までの時間ほどに人類の未来は長くない。その大量死の時にまとめてゴッソリ、此方こちらに来られても受け入れる国も大変だし亜人が大増加するのは好ましくない、というわけだ。

 だから今、現世では壮大な間引きが行われている。都合の良い事に、彼方あちらに生きる者は肉体が亡くなるまで霞体が滅されている事には気付けない場合が殆どである。だから問題視もされないし、現世に生きる者は肉体の生ある間は困らない。

 新月丸は頻繁に現世の魂を始末している。
 リックもまた同様だ。

 些細な事、と思われがちな悪事や迷惑行為でも、新月丸やリックの近くでそれをしてしまえば簡単に転生を断ち切るし、地獄と称される所へ落とす場合も割と頻繁にある。

 そして多くの神々もそれを実行していた。

 但し信者を抱える神々は現世に於いて不品行な人間であっても、此方に来て亜人になる者であっても「熱心な自分の信奉者」は己の手元に置きたい。

 都合の良い駒や兵士になるからだ。

「彼方の世界に関わるな」と新月丸に命令をしてきた神も信仰の名の下、現世で戦争や内乱を頻繁に起こさせている。その上、異教徒なら害しても良いなんていうとんでもない教えまで広め、都合よく霞体を間引き手駒を増やしている。

 神々のみそれをする権利と自由がある、と思い込んでいるのだ。

 神ではない、ただの国の只の王である新月丸が現世で好き勝手に魂の間引きをしている事を神は気に入らない。そして現世に生きる者と関わりを持つのも助けるのも、ちょっとした奇跡を起こすのも全てが許せないのである。

 その尊大な態度に新月丸が反感を抱くのも当たり前といえよう。

 新月丸の所感では自分やリック、神々以外にも魂の間引きを行っている者が現世に身を置く者、つまり人間の中にもチラホラいると踏んでいる。それが、どういった者であるかは調べていない。知った所で余計な事態に発展する可能性もあるからだ。

 この区域に入った時「ここで亜人に襲われたら情け容赦なく消してやろーっと」なんて新月丸は思っていたが幸いと言うべきか、驚異的なスピードでケケイシは駆け抜けている。出会った所で突風の如く一瞬で過ぎ去るので、交戦にはならないだろう。

 現世の事情もよく知っている新月丸は亜人を嫌っていた。

 亜人の中にいる友好的な者はその限りではないが、友好的な亜人は極めて少数なのである。また、読心術を使わねば、真意が解らない亜人も多く、言葉や素ぶりで仲間だ味方だ、と思わせておいて隙ができたら裏切る亜人も決して少なくない。

 新月丸は読心術も使えるので、すぐに見分けられるのだが嘘をペラペラと並べ友好的な振りをする亜人を見るのは気分をとても害するものだ。

 今、新月丸を乗せ疾走しているケケイシは獣人に属する人狼である。

 亜人種と間違えられがちだが獣人はまた、別種だ。この種は人と獣が混じった姿を基盤とし、時として獣化できる。但し近年では獣化出来ない者も増えてきた。それは人間種と獣人との混血児が増えたのもあれば、以前に比べ獣として過ごす必要が無くなった為、退化しつつある能力とも言える。

 人との混血が一切無い獣人であれば練習次第でほぼ80%程が獣化出来るが、皆が当たり前に獣の姿を取れるわけではなくなっていた。

 余談になるが獣人はリックが住む現世と生死によって行き来していない。別の星の現世に住まう人の生死により此方こちら彼方あちらを行き来をしている種族だ。

 新月丸が関わりリックが住まう世界の単語で言い表すのなら「宇宙人」になるのだろう。

 周囲の湿度が高まり独特な霧が薄く出てきた。
 そろそろ、この地域最大の難関がある。

 ここまで順調に駆け疾走していたケケイシがスピードを緩め、立ち止まった。

 その前方には大きな大きな川が流れている。

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