影の境界線 - 異世界干渉編

12 -人間の世界の生き方

 今日は送迎のバイトが無い。
 だから早起きする必要も無い。
 あのバイトは朝早いのが本当に辛い。

 俺もリックも夜型だからなぁ…

 俺はリックより少し早く目が覚めた。
 隣で寝ているリックを抱き寄せ匂いを嗅ぐのが毎朝の習慣だ。

 人にはそれぞれの匂いがある。
 体臭と言っても臭いものではなく個人を識別する香りというか。

 俺もリックから言わせると「俺の匂い」がすると言う。
 普段から俺がつけている香水が薄くなった香りと「俺の匂い」が混じっていて好きだと言われたことがあった。そういうのってなんか良いよな。

 早起きの必要がない日は布団の中でしばらくリックとダラダラ横になり惰眠もする。

 この時間はとても心地いい。時がこのまま止まればいいのに、といつも思う。

 抱き寄せそのままウトウトと寝る事もあれば、俺が王として目を通さないとならない書類が多ければ横になったままそれを読む日もある。

 しかし今日はこの後、リックがしている通販業の仕事だ。

 俺には肉の器がない。だからいつも通りリックの身体を借りる必要がある。
 その方法を使わなければこの世界で俺は動けないが、リックの近くで仕事ができないのは最大の難点だ。霞体中身の抜けた状態でリックが近くにいると本来の身体の持ち主であるリックの霞体本体肉の器肉体に戻そうとする力が働く。身体肉体を借りている俺を異物として押し退けてしまう。だから身体を借りこの世の仕事を俺がしている間、リックはあっち側の俺のベッドで休んでいてもらうのが常となっている。

 商品を売るために使っているECサイトは、リックがよくボヤいている通り改悪に余念が無い。月額使用料と売れた品に応じて高額の販売手数料を取るくせに、売り上げが下がる改悪ばかりをどんどんする。

 それでも調べると現状、ここが最も売りやすい。
 他に良い所が出来たら即、そっちへ移りたいと俺も思うが当面、出てこないだろう。アイデアがあってもこの世は資本金という大きな問題に直面するからな。しかし今のこの国にそこまで力ある者が居ない。

 だから改悪ばかりのECサイトだが可能な限りの小細工をし、売り上げを維持し何とか改悪から利益を守っている。決して満足のいく儲けは出ていないか今はこれくらいで仕方ない。

 ネットだろうが実店舗だろうが販売業というのは「安く仕入れて高く売る」この基本は変わらない。
 スマホを使い調べれば利益のある品は見つかる。なるべく安く良い品を仕入れ出品する。ネット通販はそれをしたら後は売れるのを待つだけだ。いらっしゃいませ〜と愛想よく振る舞って客を招くとかは出来ないからなぁ。

 俺は仕入れと出品をリックに代わり担当している。
 発送作業だけリックにして貰う。

 俺はなんだかんだ長生きをしているので、ある程度は応用が効く。改悪の抜け道も多少は見つけられる。

 やたら長く生きてた年月にいい思い出はあまり無いのだが、リックの手伝いをしている時に「長生きも悪くない」と感じられるようになった。長寿が役立つのはいい事だな。

 …そしてこの企業のトップ連中は絶対に霞体本体を始末してやる。現世この世で終わりだ。企業己らの利益追求のみを考え利用者を顧みない奴は要らない。クソ過ぎる。何なら始末前に苦しめてやろうか。霞体中身を滅しても、この世界で地獄と称されがちな所へ送りどんな事をしても。この世でそれに気付ける人間は極僅かだし縦ばよしんば気付かれたとしても、それを裁く法は現世この世に無い。

 ザマアミロ、だ。

 この作業をしていると、ついついそんな事を考えてしまう。

 いつか来るその時に思いを馳せつつ、今日は仕入れたまま出せていない品を出品するか。

 ………。
 パソコンを開いたところでふと頭に過ぎるあの手紙。

 そう言えば。

 昨日***から俺宛に手紙が届けられたが、あの国の誰が届けにきたのだろう。

 ***あいつの事だ。
 届けさせた己の使いに酷く当たっている可能性がある。

 俺は少し気になった。
 開いたばかりのノートパソコンを閉じ、リックに身体を返す。

「あれ?まだ入れ替わったばかりなのにどうしたの?」
「俺の本業がちょっと立て込んで顔を出す必要があってな」
「分かった。じゃ、出来る仕事をして待ってるよ」
「戻ったら俺が一気に片付けるから、のんびりしてていいぞ」

 軽く会話をし俺は城へ戻る。

 …俺のこういう変な勘はよく当たるからな。

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