影の境界線 - 異世界干渉編

05 -月光国

 平和な日々が続いている城の内部では王に選ばれ国政に携わる者が今日も働いている。

 広い城に対して働く者の人数はとても少ない。
 仕事量に比べて人は圧倒的に足りていない。

 今は王と王の側近2名が信頼できる者を見定め採用しているので一気に人数を増やせないのである。
 とても忙しそうではあるけれど、働く者達に暗い影は見られず活気があり楽しい雰囲気で満たされていた。

 町も和気藹々としており、店を利用する官僚もちょくちょく見かける。
 定食屋で王が昼食をとっている姿が頻繁に見られていた。

「陰惨な国だったのが信じられないわよね…」

 長い金髪に碧い目のスラリとした女が窓から外を眺め独り言を呟いたその時。

 独り言の主へ用のある若い男が足早に近づいてきた。

「王はおられますか?」

 それは書簡を携えた王室付き便利係だ。

「急ぎの感じね」
「ええ、なるべく早くお知らせしたくて走ってきました」

 …便利係、なんて変な役職名は私が付けたわけじゃない。

「小間使い、も変だし雑務マン、も嫌な感じだし便利係がちょうどよくね?」なんて王が軽く言った名称がそのまま採用されたのよ。

 王と官僚の関係は重苦しいものではないから皆、気にしないけれど便利係っていい名称なのかしら?

 そんなことを考えながら「王は今、リックの所にいます」と返した。

 ここ数年。
 王は国務より、リックの仕事の手伝いに力を入れている。
 手伝っているというよりリックの仕事を代行している、が正しいわね。

 私は王直属の秘書兼宰相という立場だけど王のその行動に不満は無い。

 私が見聞きする彼方あちらの世界は閉塞感や独特の不条理があるように感じる。強く根深い選民意識があるのに「そんなものはありません」って欺瞞で隠す。選挙制度があるのに何故か民を大事にする人が上に立たず私利私欲に素直な人ばかりが政に携わる。

 そんなだからか際立ったモノを持っていない人が豊かになるのは難しい。

 成果が全て、結果が全て。

 そういった物の見方があまりにも強過ぎ、報われない人は徹底的に報われないままで終わってしまう。報われない事、成功しない事を全て本人のせいだと押し付け切り捨ててしまう冷たさがある。

 成果や結果が全て、といった見方は此方こちらの世界に無いわけではない。
 知性を持つ存在が社会形成して集まれば、必ず起きる価値観よね。

 けれど、報われないままに終わるのは彼方あちらの世界より遥かに少ない。
 
 王が「彼方あちらの世界のようにはしたくない」と常々、言っていたのが今はよく理解できる。

 リックは良い子よ。
 生まれは一般的な家庭ね。
 世渡りが下手で生き方も不器用。

 彼方あちらの世界では切り捨てられる側。

 だから王は妻であるリックを手伝っている。

 リックが此方こちらに来るまでの時間はリックの肉体寿命が尽きるまでの残り30〜50年。

 私達にとってはそう大して長い時間ではない。
 でも彼方あちら側の人間にとって30年50年は長い時間。

 その寿命までの時間をリックに少しでも楽しく、少しでも楽に生きてほしいから王は様々な手伝いをしている。リックは彼方あちらの世界で子供の頃から辛い目にも遭っているみたいだし、なるべく苦労をさせたくないのよね。

 国が落ち着き始めたある日。
 私達は王から直接お願いをされた。

「しばらくの間、国務の殆どをお前とタロウに任せてしまうが許してほしい」と。

 タロウは私とほぼ同格の地位を持ち、ほぼ同じ業務をしている同僚。
 私の次に国務に参加した、私の最初の後輩でもある。

 そのタロウもリックをよく知っているから快く了解したの。

 だから今日も王はリックがいる世界で仕事をしている。

 私達は国務をする。

 どうしても王でないとダメな事柄のみ手が空いた時にしてもらう。

 落ち着いてきたといっても国の仕事はそれなりに忙しいのでタロウが居てくれて良かった。
 1人じゃ仕事が捌ききれず王の頼みをきけなかったわ。

 便利係をチラッと見たタロウはいつもと変わらずの仏頂面。
 ぶっきらぼうで不愛想。無口で淡々とし過ぎているのがたまにキズと私は思う。

 でもそんな所が一部で「クールな男前」なんて言われているみたい。
 …私は全然そう思わないけど好みはそれぞれよね。

 この国は今、とても平和だから私達だけでも政が成り立っている。
 荒れていたなら、私達だけで統制出来ないもの…

 そんな中、便利係が携えてきたその書簡は王へ直ちに伝えなければならない相手からのものだった。

 これは面倒になりそうね……

 内容を確認した率直な感想を私の心の中に留め、受取書にクレア・エヴァリエンスと受け取りのサインをして王にすぐ連絡をした。

 新月様。***様から親書が届いているので手が空き次第、至急お戻りください、と。

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